スマートフォンやPCと接続して使う、超軽量ARグラス「Nreal Air(エンリアルエアー)」を実際に使ってみたレビューをしていきます。
Nreal Airは、79gの軽量なARグラス。スタンドアロンでは動作せず、USB type CケーブルでスマートフォンやPCからの電源・映像出力のみにより動作するため、バッテリーなどの重量物を搭載しない超軽快な装着感が強みのデバイスとなっています。
(追記:2023年5月25日にNrealからXREALにブランド変更が発表され、Nreal Airも合わせてXREAL Airに製品名が変更されています)
ハードウェアとしては基本的にUSB type C接続のDisplayPort Alt Modeで出力できる有機ELの映像出力デバイスとして振る舞い、解像度は1920×1080(両眼で3840×1080)といったスペック。ここに3DoF(X軸・Y軸・Z軸)の検知とデュアルスピーカー、マイクが組み合わせられ、接続するデバイスによってそれらのハードウェアと連動した機能を使う事ができます。
DisplayPort Alt Modeに対応したAndroidスマートフォンではNebulaアプリをインストールする事によってMR空間に複数のウィンドウを出せるMR SpaceとミラーリングのAir Castingが利用でき、Nreal Airの機能を最も多く使うことが可能。ただしNebulaアプリがインストール可能な機種は限られているので注意。
Appleシリコン搭載のMacではDisplayPort Alt Modeの外付けディスプレイとして使う事ができるほか、ベータ版のNebula for Macをインストールする事で最大3つの仮想ディスプレイを空間上に設置する事が可能。この機能はWindows向けにも開発中。
USB type Cポート搭載のiPadからはDisplayPort Alt Modeでそのまま画面のミラーリングができ、iPhoneに関しては専用のNreal AdapterとApple Lightning – Digital AVアダプタを挟む事で同様にミラーリングが可能です。
今回は実際にいくつかのデバイスでNreal Airを使ってみたそれぞれの使用感の違いと、その中でも快適に使えた用途をまとめていきます。
この記事の目次
Nreal Airのパッケージ内容・外観
箱の中のNreal Airは専用のケースに入っており、ここに本体・ケーブル・ライトシールドを安全に格納して持ち運ぶ事が可能。
中にはNreal Air本体と接続用USB type Cケーブル、ライトシールドが入っています。iPhoneの場合はNreal Adapterが別途必要ですが、USB type Cポート搭載端末との接続はこのセットで完結します。
視力補正用レンズフレームと装着済みの物とは別の長さのノーズパッドが2つ同梱され、利用者ごとの調整が可能。自分はノーズパッドは一番長いものに交換したところ最も快適に使うことができました。
こちらがNreal Air本体。サングラスのような見た目をしており、内側の半透明の反射板で内蔵の有機ELパネルの映像を前方視界に重ねる構造となっています。
中央のノーズパッド部分は着脱して予備の別サイズの物と交換可能。
掛けた際に右側に来る方の足には画面のオン・オフのボタンと輝度調整のボタンを搭載。
逆側の足には先端にUSB type Cポートを搭載しています。
付属のUSB type Cケーブルは接続した際に下にケーブルが垂れるよう角度がついています。
ライトシールドを装着したところ。この状態では外の様子が見えなくなる代わりに映像が鮮明に見えるので、VRゴーグル的に使う事ができます。
ケースはARグラス側とケーブル側で仕切られており、ぴったり収納できます。
Nreal Airのデバイス別の使用感
続いて、Nreal Airを各種デバイスに接続して使っていきます。
1. Androidスマートフォンで使う
用意されているNebulaアプリをGoogle Playからインストールする事で、最もNreal Airの機能を多く使えるのがAndroid。アプリがインストールできる機種は限られているので公式サイトの対応機種一覧を確認する必要がありますが、対応機種であればミラーリングだけでなくAR空間上にマルチウィンドウで対応アプリを展開できるARモードを使う事ができます。
対応機種一覧ではGalaxy Z Foldシリーズは日本のキャリアモデルは3から対応となっていましたが、今回は国内単体販売のGalaxy Z Fold2 5G (Thom Browne Edition)がインストール可能だったので試してみました。
ARモードではスマートフォンの画面をリモコンとして使い、空間上の操作が可能。
様々なレイアウトで空間上にブラウザを並べて表示することができ、設置する奥行きも設定可能。基本的にこのARモードは現時点では実質Webブラウジング専用といったところですが、想像以上に解像感も高く文字の可読性も十分に確保されていると感じました。
GalaxyのSamusung Dexのように外部ディスプレイでPCライクなUIで操作できるAndroidとの相性も良く、Nreal Air+マウス+キーボードを用意すればPCが無くとも場所問わずPC的な作業環境が作れるのも強み。AR以外の部分でもAndroid+Nreal Airは面白い組み合わせです。
2. iPhone+Nreal Adapterで使う
USB type C接続のDisplayPort Alt Modeが必要なNreal Airは直接はiPhoneと接続する事はできませんが、併売されているNreal AdapterとApple純正のApple Lightning – Digital AVアダプタを組み合わせる事でiPhoneから出力される映像を調整し、Nreal Airに出力する事が可能。今回はこちらの組み合わせも試してみました。
こちらがNreal Adapter。単体ではHDMI入力の映像をUSB type CのDisplayPort Alt Modeで出力するバッテリー内蔵のボックスとなっており、HDMIケーブルが接続できるアダプタが取り付けられています。
バッテリーを内蔵する事により映像+電源を接続デバイス側から取れるUSB type Cのデバイス以外でもNreal Airへの電源供給が可能となっています。なお、このNreal Adapter本体はUSB type Cによる充電が必要。
側面のUSB type Cポートの横に電源ボタンを搭載。
Appleのアダプタを取り付けない状態ではHDMIケーブルの入力が可能となっており、Nintendo Switchのようなゲーム機をNreal Airに繋いで楽しむ事ができるようになっています。
HDMIのアダプタ部分を取り外すとAppleのApple Lightning – Digital AVアダプタぴったりのサイズの溝となっており、組み合わせる事でiPhoneのLightning端子に接続して使う事ができるようになります。
iPhoneと繋いだところ。iPhoneからアダプタの箱がぶら下がってしまうのはやや取り回しが不便ではあるものの、腰を据えて使うには十分にポータブルなサイズ感です。
iPhoneと接続したNreal Airは画面のミラーリングが他、TVにHDMI接続した際のように特定のアプリからは映像の出力先としてNreal Airが利用可能。ただしHDCPには対応しているものの、Amazonプライムビデオなど一部アプリではHDCPコンテンツ保護基準を満たしていないとの表記になり映像が再生できない場合がありました。
またApple公式のTVアプリでは映画は一部のフォーマットでは再生できませんが、端末にダウンロードしたフォーマットが再生不可な場合、対応した下位フォーマットのダウンロードを促されます。
iPhoneでNreal Airを使う場合、Nreal Adapterが必要、著作権保護の厳しい一部アプリの映像が再生できないといったデメリットはあるものの、Androidでの使用時と異なり画面をロックした状態で映像出力ができるので、再生できるコンテンツに関しては移動中の動画鑑賞は最も快適に行う事ができました。
特に着席時間の長い飛行機で移動中の映画鑑賞には最高で、第2世代AirPods ProでノイズキャンセリングしつつNreal Airのバーチャルな大画面を展開すると没入感が抜群。更に再生・一時停止の操作にiPhoneをリモコンとして使えるだけでなく、AirPods Pro側からも操作が可能。鑑賞環境としての完成度は高く感じました。
またライトシールドで外界を遮ると映像的には没入感がアップするものの、飛行機では映像の裏で動く物が無いので装着しない状態でも十分に快適。周りに注意を向けたまま映像が楽しめるためフライト中のドリンクの提供を見落とすといった事もなく、ARグラスの強みを存分に発揮することができます。
iTunes Storeで購入した映画を長時間の移動中にNreal Air+AirPods Proで楽しむスタイルはかなりおすすめです。
3. iPad miniで使う
iPhoneで使った場合の使い勝手の良さに加え、Nreal Adapterの不便も回避できるのがiPad。USB type Cケーブルで直結するだけでアダプタ不要で映像出力ができ、Amazonプライムビデオも問題なく再生が可能。デバイス本体がiPhoneよりも大きい点以外は上位互換と言える使用感になります。
特にiPad miniと組み合わせた際の相性は良好で、コンパクトなiPadとアダプタ不要のNreal Airのセットでコンパクトな動画鑑賞環境を持ち運ぶことができます。デメリットとしてはNreal Airの電源の給電がiPad miniから行われるため電池容量の少なめなiPad miniだと少し心許ない点がありますが、それを加味しても使い勝手の良い組み合わせに感じます。
iPhone、iPadともにAndroidのようなAR空間上のUIは利用できないものの、純粋に軽量コンパクトな映画鑑賞環境としてはどちらも非常に優れた組み合わせだと感じました。
また、Nreal Airは2023年に入ってからファームウェアのアップデートで2D/3Dの切り替えに対応。輝度+ボタンを長押しする事で3Dモードに切り替える事ができるようになっています。3Dモード時には1920×1080ではなく左目・右目の映像を左右に繋げた3840×1080のディスプレイとして認識されるようになるため、SBS(side by side)方式の3D映像をフルスクリーン再生するとそのまま3Dで楽しむ事ができます。
iPad向けに配布されている無料の動画プレイヤー「VLC media player」で試してみましたが、SBS方式の3D動画を3840×1080のアスペクト比に拡大して再生する事が簡単にできるため、ソースの映像さえあればNreal Airで3D映像を手軽に楽しむ事ができました。
現時点では3840×1080のSBS方式に引き伸ばせる3D映像のソースが乏しいものの、狭めの視野角に片目1920×1080の解像度が収まっているため精細感は高く、立体視自体のクオリティは良好。3D映像鑑賞用のグラスとしてのポテンシャルは高く感じます。
4. MacBook Airで使う
Nreal AirはMacとの相性も良く、そのままUSB type Cケーブルを直結すれば1920×1080のモニターとして認識してそのまま画面出力が可能。更にAppleシリコン搭載モデルに関してはNebula for Macというユーティリティをインストールする事で、AR上の仮想トリプルディスプレイを構築する事ができます。
Nebula for Macを導入するとメニューバーからNreal Air上の画面の数、距離、画面サイズ、画面同士の角度を設定する事が可能です。
使用感としてはトリプルディスプレイ環境をいつでもARグラス一つで構築できる手軽さは素晴らしい一方で、やはり気になってくるのはNreal Air自体のハードウェア的な視野角の狭さ。視野角が46度しかないため一度に見渡せる画面の領域が狭く、これを解消するために仮想的なモニターの位置を離す事もできますが、そうすると画面が縮小され解像感が犠牲になるのでさじ加減が悩ましいところ。
単純に視野角いっぱいに1920×1080の映像出力で使っている際のNreal Airの解像感の高さには目を見張るものがありますが、Nebula for Macで1920×1080の中に更に小さく画面を設置すると文字の可読性などが思いのほか下がってしまうのが難点。
また、Nebula for Mac自体がまだベータ版で安定しておらず、Mission Controlなどと組み合わせると画面出力が正常に行われなかったりと、公式サイトで注意書きがあるとおり実用にはまだ少し早い印象です。
とは言いつつサングラスと大きく変わらないコンパクトな荷物で3つの画面をいつでもどこでも追加できる衝撃は大きく、作業内容によっては既に十分に実用性のある機能だと感じました。Windows向けにも開発中とのことなので、今後の発展に期待の部分です。
旅に嬉しい、常用できる軽さのカジュアルなARグラス
やはり、Nreal Airの魅力は何と言ってもその軽快感。色々なデバイスと組み合わせて使ってみましたが、たった79gの軽さでサングラスと大差ないサイズ感のARグラスというのは衝撃的で、これであれば常日頃バッグに常備しても苦ではないと感じました。
数年前に購入したVRゴーグルのQuest 2ではオールインワンに全てを詰め込んで単体で使える商品力にインパクトを感じましたが、Nreal Airはバッテリーを内蔵せず、スタンドアロンでも動かず、USBで有線接続したデバイスからの電力と映像出力でのみ動くという割り切った仕様により圧倒的な身軽さを実現しており、Quest 2とは完全に真逆の魅力を持った製品です。
特に飛行機や新幹線といった座ったまま移動する移動手段との相性は抜群で、腰を据えて動画鑑賞するにはぴったり。大画面のタブレットと比べて荷物が軽くなるだけでなく、iPhone/iPadであれば周りに自分の見ている映像が見えないのも嬉しいポイントでした。3DoFトラッキングによるARデバイスとしての側面もあるNreal Airですが、単純な映像出力が常備できるメガネ型に収まっているだけでも大きな価値を感じるデバイスでした。
Nreal Airの価格は45,980円。ARで使える機能こそは少ないものの、常備できるサイズ感と解像感の高い映像出力を兼ね備えているというだけで旅のお供としての大きな価値を感じるデバイスです。家で楽しむだけであれば同じ価格帯のVRゴーグルの方が出来る事の幅は圧倒的に広いものの、外に持ち出すのであればNreal Airの79gの超軽快コンパクトという点は圧倒的な強み。
また、もし購入前に試したいという場合であれば、ドコモのkikitoで4,480円で15日からレンタルする事も可能。未知のデバイスに約4.6万円は中々ハードルが高いので、先にお試ししてみたいという方にはおすすめです。
移動中の映画鑑賞は間違いなくスマホの小さな画面よりも楽しくなるので、移動時間が多い方に特におすすめ度の高い近未来デバイスと言えるでしょう。