先日写真で紹介したHTC One (E8)の中国移動(China Mobile)版ですが、WCDMAに関する挙動が興味深かったため検証してみました。
HTC One (E8)の対応する電波は公式サイトのスペックシートによると以下のとおり。
TDD-LTE:2300/2600/1900/2600MHz;
TD-SCDMA: 1900/2000MHz;
GSM: Band 850/900/1800/1900MHz;
FDD-LTE:1800/2600MHz;
WCDMA: 850/1900/2100MHz
中国移動(China Mobile)はGSM/TD-SCDMA/TD-LTEにてネットワークを展開しているキャリアのため、それに特化した機種となっています。しかし中国移動の利用していないFDD-LTEの1800/2600Mhz、WCDMAの850/1900/2100MHzなどにも対応しており、スペックシートが正しければこれらの電波も掴むはずです。そこで中国国内でネットワーク検索をしてみました。
上海の地上ではChina MobileがTD-LTEエリア化に力を入れているため2G/3G/4Gと表示される場所が多く、China Telecomのサービスイン前のBand 3で展開されているFDD-LTEもChina Telecom 4Gとして表示されています。
しかし、China Unicomだけは2Gのみの表示。中国では業界1位の中国移動に続く2番手の中国聯通(China Unicom)はGSM/WCDMAを中心にエリア展開をしており、HTC One (E8)もWCDMAの850/1900/2100MHzに対応しているため中国聯通のSIMも問題なく通信できるはずなのですが、何故か3Gが検知されません。
もしやChina Unicomの3Gエリア外なのでは?と思いChina Unicom HKのSIMを入れたSIMフリーiPhone 5sで通信してみたところ3Gで問題無く利用可能。となると、何らかの理由でHTC One (E8)がWCDMAを検知しない仕様になっているはず。
そこで、以下の仮説をもとに検証してみました。
仮説:中国国内ではWCDMAロックがかかっている
自社で販売した端末を競合他社のネットワークで利用されては困るので、中国移動が独自にHTCに指示して中国移動版では他のキャリアで利用できなくなっているのではないかと推測しました。となると考えられるのが「WCDMAがそもそも機能として殺されている」「中国国内キャリアのSIMカード挿入時はWCDMAを利用できない」「中国移動の電波を拾っているエリア(中国国内)ではWCDMAを無効化している」などの可能性です。そこで、真実を確かめるべくいくつかの検証をしてみました。
中国移動の3G圏外エリアにてネットワーク検索
「中国移動のエリア内ではWCDMAロックがかかっている」という推定をもとに中国移動の電波に穴がありそうな地下鉄にてネットワーク検索をかけてみました。すると、TD-SCDMAで展開されているCMCC(中国移動)の3Gのエリア外でのみChina Unicomの3G(WCDMA)を検知しました。
上記の結果から「中国移動3Gエリア内でのみ他社WCDMAを無効化」という挙動になっている事が推測できます。
日本にてネットワーク検索
日本にて中国移動のSIMを挿入したままネットワーク検索をかけてみると「EMOBILE – 44000 (4G)」「KDDI – 44050 (4G)」「44110 – 44110 (4G)」「SoftBank – 44020 (3G/4G)」「DOCOMO – 44010 (3G/4G)」「44100 – 44100 (4G)」と、PLMN番号のみでキャリア表示の無いWiMAX 2+のUQ・SoftBank 4G(AXGP)のWCPなども表示され、かなり広いネットワークオペレーターが表示されます。
その中でもSoftBankとdocomoは2100MHzを中心にWCDMAで3Gを展開しているキャリアですが、問題無く検出しています。また、China MobileのSIMカードを挿入した状態でネットワーク検索していますが、WCDMAに制限がかかっている様子はありません。
どうやら、上記の検証の結果を見る限りは「中国移動のTD-SCDMAエリア内でのみWCDMAが無効」といった仕様のようです。
以上が検証してみた結果でした。中国移動の縄張りの中では他社の3Gは使わせないという強い利権を感じる仕様である事が分かりました。某元大手携帯キャリアの人間も「それとも何かの利権か?」と言わんばかりの強烈な利権の絡んだ仕様となっています。中国移動版のHTC One (E8)は中国聯通(China Unicom)のSIMカードで使った場合GSM+WCDMA+TD-LTE(Band 41)という非常に実用的で快適な組み合わせで使えてしまうので、先手を打ってWCDMAの機能を国内で使えないように封印した形と見られます。
海外のSIMフリー端末は一口にSIMフリーと言っても買う場所によってはこういった利権が入り組んだ複雑な仕様になっているものもあるので面白いですね。なお、中国移動のこうしたロックがかかっていないモデルが欲しければ、パッケージにキャリアのロゴが印刷されていないものを選ぶのが決め手のようなので、現地で購入を考えている方は参考までに。